「省エネ性能をどのようにデータで示せばよいのかわからない」
このような悩みを抱える設計担当者や行政職員の方も多いのではないでしょうか。
感覚や経験則だけに頼る設計では、施主や関係者を納得させるのが難しい場面も増えています。そこで役立つのが「環境シミュレーション」です。
本記事では、環境シミュレーションの基本やメリット・導入のポイントなどを解説します。業務に活かせるヒントを探している方は、ぜひ最後までご覧ください。
建築における環境シミュレーションとは

建築における環境シミュレーションとは、建物の環境性能を見える化し、快適で省エネな設計を実現するための技術です。
近年の建築設計では、風通しの良さや日当たり・室温のばらつきなど、目に見えない環境要素を感覚や経験に頼らず科学的に評価する姿勢が求められています。
建物の3Dモデルを作成し、日射・風・温熱・採光などの要素を加えると、以下のようなシミュレーションが可能です。
- 季節や時間による日当たりの変化
- 建物周辺の風の流れ方
- 室内の温度分布や自然光の入り方
設計初期から課題を見える化し、客観的なデータをもとに改善策を検討できる点が、環境シミュレーションの魅力です。
環境シミュレーションが重視される理由
環境シミュレーションの活用が重視されている背景には、建築分野が直面する社会的な課題があります。とくに次の3つは、データに基づく対応が求められるテーマです。
社会的課題 | 内容 |
---|---|
ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の推進 | 快適な室内環境を維持しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにする取り組み。 |
カーボンニュートラルの実現 | 温室効果ガスの排出量と吸収量のバランスをとり、全体として排出を実質ゼロにする取り組み。 |
SDGsの目標達成 | 持続可能で誰もが安心して暮らせる社会の実現に向け、世界が協力して取り組む国際的な取り組み。 |
環境シミュレーションは、上記のニーズに応える手段として、設計の説得力と建築物の付加価値を高める重要なツールになっています。
建築設計に環境シミュレーションを取り入れるメリット

建築設計に環境シミュレーションを取り入れるメリットは、次の3つです。
- 省エネとカーボンニュートラルに貢献できる
- 室内の快適性を向上させる
- コンペや行政対応で評価されやすくなる
詳しく見ていきましょう。
1. 省エネとカーボンニュートラルに貢献できる
建築設計に環境シミュレーションを用いるメリットのひとつは、省エネルギー設計を後押しできる点です。
建物の年間エネルギー消費量やCO₂排出量を高精度で予測できるため、環境性能をデータで裏付けられます。
たとえば、断熱材の性能や窓の仕様、日射遮蔽の有無を分析すると、少ない電力や稼働で人が過ごしやすいと感じる空調・照明計画が立案できます。
ZEBやカーボンニュートラルの達成に向けた、環境負荷の少ない建築計画を支えることにつながるでしょう。
2. 室内の快適性を可視化し設計に活かせる
利用者が日々過ごす空間の快適性を、科学的根拠に基づいて追求できることもメリットです。
温熱環境シミュレーションを行えば、夏場の室温上昇や冬場の窓際からの冷気などからくる、意図しない温度変化を予測し対策を講じられます。
また、採光シミュレーションを活用すれば、自然光を室内の奥まで取り入れ、照明を使わなくても明るく開放的な空間をつくることが可能です。
誰もが快適に過ごせる室内環境をつくるために、環境シミュレーションは役立ちます。
3. コンペや行政対応で評価されやすくなる
環境シミュレーションは、建築計画を関係者に理解させ、納得してもらうための有効な手段です。
これは建築環境デザインコンペや公共施設設計の評価指標として、活用されつつあります。建築プロジェクトは、施主や行政の意見を聞き、地域住民に配慮しながら進行します。
シミュレーションを活用すれば、設計案の環境性能や周辺環境への配慮(ビル風・日影の影響)などを、CGやグラフで提示でき設計意図の理解を得やすくなるでしょう。
周囲の理解を得られると、プロジェクト全体を円滑に進めることが可能です。
建築設計に使える環境シミュレーションソフト
建築設計に活用されている代表的な環境シミュレーションソフトを5つ紹介します。
ソフト名 | 特徴 |
---|---|
Autodesk Revit | ・高精度な3Dモデリングができる ・風や日射、空調の環境シミュレーションに対応している |
SketchUp | ・直感的な操作で3Dモデリングができる ・風や日射、空調の環境シミュレーションに対応している |
Rhino | ・複雑な形状の3Dモデリングに強い ・Grasshopper(ビジュアルプログラミングツール)と組み合わせることで環境シミュレーションに対応できる |
FlowDesigner | ・屋内外の風の流れや温度変化、空気中の汚れの広がりを可視化できる ・日本製で実務・教育の現場でも活用されている |
WindPerfect | ・風環境や温熱環境の評価ができる ・都市の風害評価や空調・換気計画に活用されている |
上記のソフトを効果的に活用し環境性能に優れた設計を実現するには、専門的な知識と経験が必要です。
株式会社メンテルでは、これらのツールを用いた高精度な環境シミュレーションを提供しています。
建築分野における環境シミュレーションの活用事例

環境シミュレーションは、建物の種類やプロジェクトの目的に応じて、さまざまな分野で活用されています。代表的な活用事例を2つ紹介します。
- 【民間】住宅・オフィス設計
- 【行政】気候変動対策
ひとつずつ見ていきましょう。
【民間】住宅・オフィス設計
環境シミュレーションは、住宅やオフィスの設計において快適性と省エネ性を両立するために欠かせないツールです。
たとえば、設計初期に日射・通風・採光などをシミュレーションすれば、次のような工夫を数値で検証しながら進められます。
- 夏は日差しを遮り、冬は光を取り込める窓の配置や庇の設計
- 心地よい風が通り抜ける間取りの検討
- 室内に自然光を取り入れる採光計画
環境シミュレーションを活用すれば、誰もが快適に過ごせる空間を、数値に基づいて設計できるようになります。
【行政】気候変動対策
行政分野では、都市や地域全体の気候変動対策において、環境シミュレーションの重要性が高まっています。
たとえば、都市の3Dモデルに建物の配置や形状を反映させて温熱環境のシミュレーションを行うと、ヒートアイランド現象を可視化できます。
これにより緑化や通風対策の立案に客観的な根拠を持たせることが可能です。
さらに、屋根の日射量を解析して太陽光パネルの最適な配置場所を導き出すような、再生可能エネルギーの導入を後押しする手段としても活用されています。
建築設計で環境シミュレーションを導入する際のポイント

建築設計で環境シミュレーションを導入する際のポイントは、次の3つです。
- 導入のタイミングを見極める
- 課題設定から改善提案までの流れを把握する
- 設備設計と連携してシミュレーション効果を最大化する
順番に解説していきます。
導入のタイミングを見極める
環境シミュレーションは、設計のなるべく早い段階で活用する必要があります。
企画設計の初期段階にシミュレーションを行えば、得られた分析結果を設計に反映しやすいためです。
建物の向きや窓のサイズなど、基本性能に関わる部分を早期に最適化できます。
初期段階で課題を洗い出して対策を講じることが、プロジェクト全体の品質と効率化、成功率の向上につながります。
課題設定から改善提案までの流れを把握する
環境シミュレーションを効果的に活用するには「何のために行うのか」という目的意識が求められます。
基本的な流れは、以下の4ステップです。
- 現状把握・課題設定
- モデル作成・数値化
- シミュレーション実行
- 結果の分析・改善案提案
専門会社に依頼する場合も、まずは課題や目的を共有し、上記の流れに沿って最適な解決策を導き出す必要があります。
設備設計と連携してシミュレーション効果を最大化する
建築設計と設備設計を連携すると、環境シミュレーションの効果を十分に発揮できます。
建物の環境性能は形状や断熱性だけでなく、空調や照明などの設備設計によっても大きく左右されます。
たとえば、高性能な断熱材や日射遮蔽ガラスを採用すれば、空調設備の規模を抑えても過ごしやすい空間を維持することが可能です。
建築設計者と設備設計者が初期段階から情報を共有し、一体となってシミュレーションを実施するのが理想的です。
まとめ:環境シミュレーションの活用はメンテルにご相談ください
本記事では、環境シミュレーションの基礎知識から具体的なメリット、活用事例までを解説しました。
環境シミュレーションは、省エネと快適性の両立や、行政での気候変動対策にも役立つ強力な設計支援ツールです。設計初期から導入し、課題設定から改善提案まで一貫した流れで活用すると、設計の質と説得力が大きく高まります。
「どこから始めればいいかわからない」「結果をどう設計に活かせばいいの?」とお悩みの方は、ぜひ株式会社メンテルへご相談ください。
建築とエネルギーの両面に精通した専門家が、貴社のプロジェクトに伴走します。