近年、建物内の省エネや利便性の向上のために、スマートビルディングが注目されています。
日本でもスマートビルディングの導入を検討する企業は多くあります。しかし、そのメリットや事例がわからないと、あと一歩踏み出しにくいでしょう。
そこで、本記事ではスマートビルディングの事例5選や導入の課題、メリットを解説します。
本記事を読むと、大手企業のスマートビルディングの仕組みがわかり、自社でどのような技術を導入すればよいのかイメージしやすくなります。
スマートビルディングの導入を検討しているビルオーナーや企業の担当者は、ぜひ最後までお読みください。
スマートビルディングとは

スマートビルディングとは、IoTやAI、BEMSなどのデジタル技術を活用し、ビル内のデータを一元管理した建物です。
オフィスや会議室に設置されたIoTセンサーが、室温や大まかな人流などの情報を収集。AIがその情報をもとに分析を行い、空調や照明システムの運用を最適化させる。
設備の稼働を最適化させると、過剰冷房や暖房、照明の消し忘れなどを防げるため、省エネ・省コストにつながります。
スマートビルディングですが、以下の3つのような理由で世に求められています。
- カーボンニュートラルの実現
- 感染症対策
- 快適性の追求
これらのニーズに応えるため、スマートビルディングの研究は盛んに行われており、その市場規模は年々拡大しています。
日本でも「スマートシティ」の先駆けとして「スマートビルディング」が位置付けられており、今後大きな成長性が期待できるでしょう。

スマートビルディングのメリット

スマートビルディングのメリットは、大きく以下の3つです。
- ビルの安全性向上
- 建物管理の業務効率化
- 省エネ・省コストの実現
ビルの安全性向上
スマートビルディングにすると、ビルのセキュリティが強化され、安全性の向上につながります。
従来、オフィスビルのセキュリティを高めるには、監視カメラや警備員を増やしたり、社内ネットワークを強化したりする必要がありました。
しかし、スマートビルディングでは、セキュリティ対策がさらに高度化され、効率的に管理できるようになります。
たとえば、AIによる画像認識技術を導入すると、エントランスゲートで顔認証を行えるようになり、不審者の侵入を防げます。
また、監視カメラとAIを連動させると、ビル内に不審者が入ったとしても、どこにいるか把握することが可能です。
建物管理の業務効率化
最新のデジタル技術を活用すると、適切な業務配分ができ、業務の効率化を図れます。
たとえば、顔認証システムを使えば出退勤が自動化され、手動でタイムカードを打刻する必要がなくなります。
また、会議室やカフェなどの共有スペースの利用状況をオンライン上で確認・予約できるようにすると、スタッフによる管理が不要です。
業務効率化の事例には、他にも以下が挙げられます。
- 清掃や警備ロボットの導入による作業の自動化
- エレベーターやエスカレーターの運用の最適化
- 来場者の分析の自動化
ビルで働く人や利用者が快適に過ごせる環境があると、従業員の仕事に対するモチベーション向上にもつながるでしょう。
省エネ・省コストの実現
スマートビルディングは、空調や照明を最適な状態で稼働させられるため、エネルギー消費を抑え、省エネ・省コストを実現します。
「10時から会議が始まるので照明と空調を付ける」といった未来の調整もできます。これにより無駄なエネルギー消費を削減し、運用コストを抑えられます。
また、環境負荷低減に力を入れているビルの運営会社というイメージを他者に対して与えやすく、ブランディングにもつながるでしょう。
スマートビルディングの課題

スマートビルディングの課題を把握すると、導入にあたって入念な対策を行えます。
スマートビルディングの課題は、以下の2つです。
- 高額な初期投資と運用コスト
- サイバーセキュリティ対策が複雑
高額な初期投資と運用コスト
スマートビルディングを導入するには、高額な初期投資と運用コストが必要です。
スマートビルディング化するには、以下のような準備を行わなければならないためです。
- IoTセンサーや機器の設置
- 高速で安定したビル内ネットワークの構築
- 高性能なAIシステムの導入
また、IoTセンサーやシステムの定期的なメンテナンスも欠かせないため、運用コストもかかります。
ただし、スマートビルディング化すると、省エネ・省コストの実現につながります。日々の支出を抑えられるため、長期的に見ると初期投資の回収は可能といえるでしょう。
サイバーセキュリティ対策が複雑
スマートビルディングの課題のひとつに、サイバーセキュリティ対策が複雑になることが挙げられます。
スマートビルディングは、ビル全体がひとつの大きなコンピューターのようなもので、AIやIoTなどの技術と設備が複雑に連動しています。
そのため、サイバーセキュリティ対策が複雑化します。
サイバーテロやウイルス対策に万全を期さないと、データ流出やシステム破壊が起こり、ビル運営に多大な損害を与えます。
システムトラブルが発生した場合、最悪のケースだと連動している空調や照明も作動しなくなるでしょう。
複雑なシステムにも対応できるサイバーセキュリティ担当者を用意することが重要です。
スマートビルディングの事例5選

スマートビルディングの事例を5つ紹介します。
- 関電不動産八重洲ビル
- 竹中セントラルビルサウス
- 東京ミッドタウン八重洲
- アーバンネット名古屋ネクスタビル
- RBC Waterpark Place
1.関電不動産八重洲ビル
2022年5月31日に竣工に施工されたビルが、関電不動産開発株式会社が進めていた関電不動産八重洲ビルです。
同ビルは、地上13階・地下1階で構成されており、以下のようなオフィスビルづくりに取り組んでいます。
- 貸室内の人や室温の分布状況をマッピングで把握できるアプリの導入
- 建築物省エネルギー性能表示精度(BELS)の最高ランクの取得
- ビル全体の消費エネルギーのゼロカーボンを実現
- 「ZEB Ready」認証の取得
「BELS」と「ZEB Ready」とは、日本国内の環境認証のことです。
同ビルではビルで消費する全電力に、再生可能エネルギー由来の環境価値を付加した「※Kenes Green Supply®︎」を導入。
これにより、実質的に再生可能エネルギー100%・Co2排出量ゼロの電力が実現できます。
2.竹中セントラルビルサウス
2022年10月3日に開業した「竹中セントラルビルサウス」は、1999年に施工した既存のオフィスビルをスマートビルに改修したものです。
近年の脱炭素に対する社会的要請や、働き方の多様化に伴うテナントニーズに対応するため、全面改修を行いCo2排出量の50%削減を予定しています。
同ビルには竹中工務店が開発する「ビルコミプラス」を軸とする、建物の脱炭素化・運用管理に関わるソリューション技術が盛り込まれています。
クラウド型の建物OSのこと。
ビル設備を更新することなく、ソフトウェアのアップデートのみで性能を高められ、既存ビルに限らず新築ビルでも実装できる。
ビルコミプラスは、ビルの設備や環境センサーからのデータ、AI技術による画像解説情報などを活用しています。以下のようなスマートビルディングの効果を実現しています。
- 熱源AI制御
- 照明制御
- 自然換気制御
- 空調制御
- ビル管理制御
この他にもロボットを活用して設備管理や警備・清掃を実施しています。その結果、業務の生産性の向上を図っており、先進的な建物管理サービスを提供しています。
3.東京ミッドタウン八重洲
NTTコミュニケーションズ株式会社の「Smart Date Platform for City(SDPF for City)」は、2023年3月10日に東京ミッドタウン八重洲で運用が開始されました。
SDPF for Cityとは、エレベーターや自動ドアと連携することで、ビル内を自律走行するロボットを制御できるようにしたスマートビルディングの仕組みです。
SDPF for Cityは以下3つのことを実現します。
- 計19台の役割が異なる複数メーカーのロボットを制御
- オフィスワーカー向けにロボットによるデリバリーサービスを導入
- 顔認証による入退館の完全なタッチレス化
従来はセキュリティの観点から、デリバリーの注文者がロビーまで来て、受け渡しを行っていました。
しかし、SDPF for Cityを活用すると、自律走行ロボットがロビーで配達員から商品を受け取ることが可能です。
4.アーバンネット名古屋ネクスタビル
NTTアーバンソリューションズ株式会社とNTT年開発株式会社は、次世代型先進オフィスビル「アーバンネット名古屋ネクスタビル」にてICT導入を進めています。
ICTとは「情報通信技術」のことです。
同社はICTを活用して「タスクやコミュニケーションを時間と空間の制約から解放し、新たな発見と想像を生み出す場」をコンセプトに開発を進めています。
このコンセプトを目指して、アーバンネット名古屋ネクスタビルでは、ICTにより以下の4つを実現しました。
- 時間と空間の制約からの解放によるパフォーマンスの最大化
- アバターロボットやMRデバイスの利用で、対面しているかのような臨場感を演出
- 非接触入退館やビル警備の高度化など、安心安全に関する取り組み
- 飲食店のオペレーション最適化とフードロス削減への貢献
これにより同社は、コロナ禍における働き方の変化に対応していきました。
5.RBC Waterpark Place
RBC Waterpark Placeは、コンピュータネットワーク機器開発会社「Cisco」のカナダ本社となるビルです。
同ビルは、Interact Officeソフトウェアアプリケーションとデータ対応サービスにより、従業員に最先端のワークスペースを提供しています。
また、施設管理者に対しては、運用状況の明確な可視化を可能にしました。たとえば、コネクテッド照明システムの導入です。
この照明システムには、センサーが取り付けられており、温度や照度、従業員の占有率を計測できます。コネクテッド照明システムの導入により、以下のことが実現可能になります。
- 最適な換気・室温調整の実現
- 働く環境の最適化とスペース効率の向上
同ビルにInteract Officeを導入することで、年間177,000kWhものエネルギーの節約と、年間45,000カナダドルの節約が見込まれています。
まとめ

本記事では、スマートビルディングの事例5選と導入の課題、メリットを解説しました。
- 関電不動産八重洲ビル
- 竹中セントラルサウスビル
- 東京ミッドタウン八重洲
- アーバンネット名古屋ネクスタビル
- RBC Waterpark Place
どの事例でも「安全性向上」や「建物管理の業務効率化」「省エネ・省コストの実現」を目的にしています。
また日本や海外では、スマートビルディングの導入が進んでおり、省エネ・省コストなどを実感している企業は増加傾向にあります。
株式会社メンテルでは、スマートビルディング実現をサポートするアプリケーションやソフトウェアを受託で開発・提供しています。
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