「設備設計に自然換気を取り入る方法は?」
「具体的なメリットが知りたい」
自然換気は、動力を用いずに空気を循環させる仕組みのため、持続可能な建築を目指すうえで重要です。しかし、原理や効果を正確に理解し、設計に落とし込むのは容易ではありません。
そこで本記事では、自然換気の仕組みやメリット、設計上のポイントなどを解説します。
最後まで読めば、自然換気を設計に取り入れるための知識が身につきます。建築計画の参考にぜひご活用ください。
自然換気とは

自然換気とは、ファンなどの機械動力に頼らず、風力や空気の温度差などの自然エネルギーを利用して、建物内外の空気を入れ替える換気手法です。
主に「風力換気」と「温度差換気」の2つの原理に基づいています。
換気方法 | 利用するエネルギー | 換気の原理 |
---|---|---|
風力換気 | 風 | 風による圧力差で空気を押し出す・引き込む |
温度差換気 | 空気の温度差 | 暖かい空気が上昇し、冷たい空気が下降する |
風力換気は、向かい合う窓を開けて風上側の窓から空気を入り込ませ、風下側の窓に抜けさせる手法です。
温度差換気は、建物の低い位置にある給気口から冷たい外気が入り、暖められて上昇した室内の空気が、高い位置にある排気口から出ていく流れです。
自然換気の仕組みを理解すれば、建物の特性や立地に応じて設計に活かせます。
自然換気と機械換気の違い
自然換気と機械換気の違いは、機械動力の有無です。2つの違いを表で比較しました。
比較項目 | 自然換気 | 機械換気 |
---|---|---|
換気の方法 | 自然の風や温度差を利用する | ファンなどの機械を使って換気する |
エネルギー消費 | 消費しない | 電力を消費する |
コスト | 設備費・運転コストがかからない | 設備導入費・電気代・メンテナンス費かかる |
換気量の安定性 | 天候や季節により不安定 | 換気量が安定 |
空気の清浄性 | 外気の状態に影響されやすい | フィルターにより清潔な空気を供給できる |
それぞれにメリット・デメリットがあるため、建物の用途や求められる性能に応じて、最適な換気方式を選ぶ必要があります。
自然換気には「自然換気設備」が用いられる
一般的に自然換気は動力装置を使わない方式を指しますが、安定した換気性能を確保するために「自然換気設備」と呼ばれる部材が用いられることがあります。
主に以下のようなものです。
- 壁面に設ける自然給気口(レジスター)
- 窓サッシに組み込まれたスリット状の換気装置
- 屋根に設置して排気を促すベンチレーター
これらは風力や温度差を利用するため、ファンを使わずに効率的な通風を可能にします。
自然換気を設備設計に取り入れる場合は、自然換気設備の導入も検討しましょう。
建築基準法における自然換気の取り扱い
自然換気であっても、構造や性能が一定の条件を満たせば、建築基準法上の「換気設備」として認められます。
建築基準法では、居室の換気について主に第28条および施行令第129条の2の5で定められており、用途や空間によっては換気設備の設置が義務付けられます。
たとえば、劇場や調理室・浴室などが該当し、適切な換気設備がない場合には法令違反として罰則の対象となることもあるでしょう。
自然換気を設計に取り入れる際は、換気性能を計算・記載し、申請時に設備として明確に位置づける必要があります。
自然換気と設備の連携によるメリット

自然換気と設備の連携によるメリットは、以下の3点です。
- 電力消費を抑えられる
- ZEBやBELSの評価で有利になる
- 室内の快適性が向上する
詳しく見ていきましょう。
電力消費を抑えられる
自然換気と設備を連携すると、快適性を保ちながら効率よくエネルギーを使えます。
気候が穏やかな春や秋に自然風や温度差を利用して空気を入れ替えると、エアコンや換気ファンの使用を最小限にできるためです。
たとえば、夜間に外気を取り入れて建物を冷やす「ナイトパージ」を活用すれば、翌日の日中に必要な冷房負荷を下げられます。
このような工夫により、建物全体の省エネにもつながります。
ZEBやBELSの評価で有利になる
自然換気を取り入れると、ZEBやBELSで高評価を得やすくなります。
- ZEB(ゼブ):建物の一次エネルギー消費量を年間でゼロを目指す建築物
- BELS(ベルス):建物の省エネ性能を星の数(最大5つ星)で評価する日本の第三者認証制度
BELSでは、一次エネルギー消費量の削減率が重視されているため、空調や換気設備の電力使用を抑える自然換気の活用は評価されやすくなります。
環境性能の高さは、テナント誘致や建物の資産価値向上にもつながるため、自然換気の活用は有効な事業戦略といえます。
室内の快適性が向上する
自然換気は、省エネ効果に加えて、室内の快適性を高める点でも有効です。
機械換気のような均一な気流とは異なり、自然風はやわらかなゆらぎをもたらし、熱や湿気を効果的に排出します。
また、センサー技術を活用して機械換気設備と連携させれば、外気温や室内のCO2濃度に応じて最適な換気モードに自動で切り替えることも可能です。
柔軟な換気設計により、心地よい室内環境と開放的な空間を維持できます。
自然換気のみ利用するデメリット

自然換気だけに頼るデメリットは次の2つです。
- 気候や風に左右されやすい
- 外のにおいや音が気になることもある
順番に解説していきます。
気候や風に左右されやすい
自然換気の課題は、気候や風などの自然条件に影響を受けやすいことです。
とくに以下のようなケースは影響を受けやすくなります。
- 無風や強風の日には、計画通りの換気が行えない
- 外気の湿気を多く取り込むと、結露やカビの原因になりやすい
- 猛暑日や寒い日に窓を開けると室内の温熱環境が損なわれ、冷暖房効率が低下する
自然風のみを利用する換気方法は制御が難しく、安定しにくいデメリットがあります。
自然換気と機械換気を併用して換気量を安定させられる「ハイブリッド換気」を導入して、快適性と省エネ性を両立することがポイントです。
外のにおいや音が気になることもある
自然換気では、窓や給気口を通じて外の空気を直接取り入れるため、周辺環境の影響を受けやすくなります。
たとえば、次のようなケースです。
- 交通量の多い道路に面していると、排気ガスや車の騒音が入ってくる
- 近隣の飲食店や工場などの排気により、においが室内に流れ込む
- 花粉や黄砂が侵入するため、アレルギー持ちの人には負担が大きい
機械換気ならば、フィルターによってにおいやガス、騒音を軽減できますが、自然換気ではダイレクトに取り込んでしまいます。
防音性や集じん性の高い給気口を選んだり、窓の位置や開閉タイミングを制御したりして対策しましょう。
自然換気を活かした建物事例

自然換気の原理を活かした建築事例を2つ紹介します。
- 積水ハウス九段南ビル
- 亜細亜大学新5号館
ひとつずつ見ていきましょう。
積水ハウス九段南ビル
積水ハウス九段南ビルは、建物全体を「換気装置」としてとらえ、外気を効率的に取り入れるシステムが採用されています。
この建物は、鹿島建設株式会社が基本設計から実施設計まで一貫して担当しました。基本設計では建物全体のコンセプトや換気方式が立案され、実施設計でその方針をもとに設備や構造の仕様が詰められています。
換気の流れは、次のような順序で設計されています。
- 外気はダブルスキン構造に設けられた「らんま窓」から室内へ取り込まれる。
- 外気が建物中央の吹き抜け空間「エコシャフト」を通って上昇する。
- 外気が屋上のトップライトから外へ排気される。
窓の開閉は、外気の温度・湿度・風速などをセンサーで感知し、室内環境と照らし合わせながら自動制御されます。
自然換気を気象条件に応じてきめ細かく制御する仕組みは、日本初の取り組みでした。
ダブルスキン構造とは
外壁に2層のガラスを設けて空気層をつくる仕組みです。断熱性や換気効率を高める効果があります。
亜細亜大学新5号館
亜細亜大学新5号館には、 自然換気を活用した省エネ設計が導入されています。東急建設株式会社一級建築士事務所が、基本設計から実施設計まで一貫して担当しました。
3〜6階の教室には、外気を取り込むための給気口があります。
取り込まれた空気は教室と廊下の間の通気用の開口部(ガラリ)を通って、中央の吹き抜けを経由後、トップライトの排気口から外へ排出される仕組みです。
排気口はタイマーとセンサーで自動で開閉され、春や秋には空調に頼らず快適な環境が保たれます。
このシステムにより、空調負荷は年間約5%、CO₂排出量は約25tの削減効果が見込まれています。
まとめ|自然換気×設備の設計は専門サポートでスムーズに
本記事では、自然換気の仕組みやメリット、設計上のポイントなどを解説しました。
自然換気は、エネルギー削減や快適性の向上につながる有効な手法です。機械設備と組み合わせて制御性を高めれば、ZEBやBELSなどの環境評価でも有利になります。
ただし、法的要件や気候条件への対応など、実用化には専門的な知識が欠かせません。
株式会社メンテルでは、自然換気と設備の最適なバランスを踏まえた設計を初期段階から支援可能です。建築の価値を最大化したい方は、ぜひ一度ご相談ください。