電力調達を行う企業にとって、予期せぬ需給のずれは思わぬコスト増につながります。そのずれを当日中に調整し、電気代の無駄を減らせるのが「時間前市場」です。
本記事では、時間前市場の仕組みから、前日に行われるスポット市場との違い、活用するメリット・注意点を解説します。
ぜひ最後までお読みいただき、電力調達戦略の精度向上にお役立てください。
その他の電力市場は「電力市場の9つの種類とは?市場価格が変動する仕組みもわかりやすく解説」でわかります。
時間前市場(当日市場)とは?
時間前市場(当日市場)とは、前日までに立てた需給計画と実際の状況にずれが生じたときに、受け渡しまでに電力不足や余剰を調整する市場です。
たとえば、発電所の急なトラブルによる共有不足や、急激な気温変化にともなう冷暖房需要の急増など、前日の計画時点では想定しきれない事態に対応します。
電力の安定供給を維持しながら、電気代の無駄を抑えることにもつながります。なお、時間前市場はJEPXの電力市場のひとつです。
JEPXを知ると、より電気代削減の選択肢が広がりますので、ぜひ「JEPXとは?電力市場の価格が決まる方式とチャートの見方」をご覧ください。
時間前市場の取引の仕組み
時間前市場は24時間開場しており、スポット市場の終了後から実需給の1時間前まで取引が行われます。
取引対象は30分単位の電力で、たとえば「10:00〜10:30に受け渡す電力」といった形で売買されます。
価格決定には「ザラ場方式」が採用されており、買手と売手の希望価格が合致した時点で取引が成立する仕組みです。
価格優先・時間優先の原則に基づき「より安い売り入札・より高い買い入札が優先」「同じ価格なら先に出した注文が優先」というルールにしたがって取引が進みます。
市場の状況に応じて、価格がリアルタイムに動くのが特徴です。
スポット市場との違い
時間前市場とスポット市場は、どちらも電力の売買を行う市場ですが、役割と使われるタイミングが異なります。
以下に、時間前市場とスポット市場の違いを表にまとめました。
| 項目 | 時間前市場 | スポット市場 |
|---|---|---|
| 主な役割 | 当日の需給調整 | 翌日の需給調整 |
| 取引のタイミング | 当日 | 前日 |
| 入札受付時間 | 24時間開場(実需給の1時間前まで) | 取引日の10日前~当日の午前10時まで(入札可能時間帯:毎日8時〜17時) |
| 価格決定方式 | ザラ場方式 | ブラインド・シングルプライスオークション方式 |
時間前市場は当日の需給調整、スポット市場は翌日の計画づくりという役割を持っています。電力調達においては両市場を組み合わせることが重要です。
スポット市場の詳細は「スポット市場とは?電気代を左右する市場価格の仕組みをわかりやすく解説」をご覧ください。
時間前市場を活用するメリット

時間前市場を活用する主なメリットは以下の2点です。
- 需給予測のずれを当日に調整して電気代の無駄を減らせる
- 需給の急変や再生可能エネルギーの出力変動に対応できる
詳しく見ていきましょう。
需給予測のずれを当日に調整して電気代の無駄を減らせる
時間前市場を活用すると、前日に立てた電力調達計画のずれを当日に調整でき、電気代の無駄を減らせます。
たとえば、当日の需要が予測よりも少ないとわかった場合、余剰分の電力を時間前市場で売り直すことで、使わなかった電気が無駄になるのを防げます。
逆に需要が増えた場合には、不足分を買い足すことで、必要な電力を柔軟に調整可能です。
こうした調整によって、過不足による無駄なコストの発生を抑えられます。
需給の急変や再生可能エネルギーの出力変動に対応できる
時間前市場を活用すれば、急な需給変動や再生可能エネルギーの出力変動にも柔軟に対応でき、安定した電力供給を維持できます。
再生可能エネルギーは天候の影響を受けやすいため発電予測が難しく、計画通りに発電できない場合があります。
また、設備トラブルや想定外の工場稼働増加など、需要側の変化が発生するケースも少なくありません。
こうした予期せぬ変動にもリアルタイムで対応できるため、計画外の事態にも強い調達体制を構築できます。
時間前市場の注意点

時間前市場の利用には、いくつかの注意点もあります。
- 価格変動リスクが大きい
- 迅速な意思決定が求められる
- 取引手数料が割高になりやすい
順番に解説していきます。
価格変動リスクが大きい
時間前市場はザラ場方式を採用しており、提示した価格でそのまま取引が成立します。そのため、単一価格で決まるスポット市場に比べ、価格変動リスクが大きくなります。
ザラ場方式とは、買手と売手の希望が合致した価格で個別に取引が成立する仕組みです。市場の状況を読み誤ると、他の取引参加者よりも不利な価格で電力の売買を行う可能性があります。
また、時間前市場はスポット市場に比べて取引量が少なく、流動性が低いことも特徴です。大量の注文を出すと、その注文自体が価格に影響を与えてしまい、想定以上に不利な条件で取引が成立するリスクがあります。
迅速な意思決定が求められる
時間前市場では、価格がリアルタイムで変動するため、電力担当者には迅速な判断が求められます。
判断が遅れると、想定より高い価格で購入したり、安値で売却してしまったりと、企業にとって不利な取引につながる可能性があります。
また、取引状況を示す「板情報」の読み違いや、急な価格変動に対応するルールが曖昧なままだと、経験の浅い担当者ほどミスを起こしやすくなるでしょう。
リアルタイムで状況を把握できる体制づくりと、担当者が迷わず判断できるルール整備が重要です。
取引手数料が割高になりやすい
時間前市場を利用する際は、スポット市場と比べて取引手数料が割高になりやすい点に注意が必要です。
JEPX(日本卸電力取引所)の規定では、従量(kWh)あたりの手数料が時間前市場のほうが約3倍以上高い水準となっています。
- 時間前市場:0.10円/kWh
- スポット市場:0.03円/kWh(月額固定制を選べる場合もあり)
時間前市場での取引が多くなるほど手数料負担が蓄積し、電力調達全体のコストを押し上げる可能性があります。
ただし、頻度や使用タイミング、取引量によってコストへの影響は異なります。あくまで「当日の調整用」として適切な頻度での活用が重要です。
時間前市場の調達体制を整えるポイント

時間前市場を効果的に活用して調達コストの最適化を図るためには、次の2つのポイントを意識しましょう。
- 需要家の電力使用状況を把握する
- 市場価格をこまめにチェックできる体制を作る
一つずつ解説していきます。
需要家の電力使用状況を把握する
時間前市場を有効に活用するためには、電力小売会社が需要家の電力使用傾向を正確に把握することが大切です。
需要家の時間帯別・設備別の使用量を把握しておくと、電力小売会社の需給の予測精度が高まり、市場取引における調達のずれを最小限に抑えられます。
エネルギーマネジメントシステム(EMS)を活用すれば、電力データを自動で収集して可視化できるため、日々の需給管理がよりスムーズになります。
また、株式会社メンテルでは、電力使用量の可視化を支援し、時間前市場を活用するための調達体制づくりを後押しします。
市場価格をこまめにチェックできる体制を作る
時間前市場で有利に取引するには、市場価格の動きをリアルタイムで把握し、価格が急変してもすぐに対応できる体制を整えることが大切です。
ザラ場方式の市場では、一瞬の判断の遅れが不利な価格での約定につながることがあります。そのため、下記の運用ルールを事前に決めておきましょう。
- 市場状況を確認する担当者の役割分担
- どこまでの価格変動を許容するか
- どの段階で取引判断を行うか
JEPX公式サイトで提供されている市場情報をこまめにチェックし、日頃から価格の動きに慣れておくことで、急な変動にも落ち着いて対応できるようになります。
時間前市場に関するよくある質問
時間前市場に関する、よくある質問をまとめました。
- 時間前市場の取引単位は?
- 時間前市場におけるゲートクローズとは?
順番に見ていきましょう。
- 時間前市場の取引単位は?
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時間前市場の最小取引単位は0.1MWで、30分間では50kWhに相当します。必要な量だけ細かく調整できるため、当日の需給変動に柔軟に対応しやすい仕組みになっています。
- 時間前市場におけるゲートクローズとは?
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時間前市場のゲートクローズとは「その時間帯の取引を締め切る時刻」のことです。実需給の1時間前が締切で、それ以降は取引の追加や変更ができません。需給を最終確定し、安定供給を確保するための重要なルールです。
まとめ
時間前市場は、前日の電力計画では対応しきれない急な需給変動を当日に調整できる重要な市場です。
需給予測のずれを調整し無駄なコストを抑えられる一方、価格変動リスクが大きいため、迅速な判断と市場の継続的な監視体制が欠かせません。
効果的に活用するためには、自社の電力使用状況を正確に把握し、調達の基盤を整えることが重要です。
株式会社メンテルでは、電力使用量の「見える化」を通じて調達体制の精度向上を支援いたします。ぜひお気軽にご相談ください。

