
需給調整市場とはどのような仕組みなの?
収益を上げるには何が必要?
こういった疑問を解決する記事です。
- 需給調整市場の仕組み
- 系統用蓄電池が収益を生む仕組み
- 収益性を高める運用のポイント



はじめまして。
この記事の執筆者の井上智樹と申します。
竹中工務店で設備設計におけるBIMや環境シミュレーションの活用を推進した後、AIベンチャーGRIDにてスマートシティ関連プロジェクトのPMとして提案から開発まで一気通貫で担当。現在は株式会社メンテルを経営しています。
需給調整市場は、電力の安定供給を支える重要な仕組みであり、蓄電池を活用した新たなビジネスとしても注目されています。一方で、収益性は運用方法に大きく左右されるため、蓄電池の適切な制御や運用設計が欠かせません。
需給調整市場と系統用蓄電池の仕組み


需給調整市場とは、電力市場のひとつであり、電力の需給バランスを保つために必要な「調整力」を取引する市場です。
電力は、発電量と使用量を常に一致させる必要があります。このバランスが崩れると、周波数が乱れ、電力系統の安定運用に支障が生じる恐れがあるため、注意が必要です。
需給調整市場では、系統用蓄電池を活用して電力の余剰時に充電、不足した際に放電することで、需給バランスの調整に対応します。
電力市場については「電力市場の9つの種類とは?市場価格が変動する仕組みもわかりやすく解説」をご覧ください。
系統用蓄電池が注目される理由
系統用蓄電池が注目される背景には、再生可能エネルギーの導入拡大と、国による支援の強化があります。
太陽光発電や風力発電は天候・時間帯によって発電量が変動するため、電力の需給バランスが崩れやすくなります。そのため、出力変動を吸収し、系統全体の安定性を保つ蓄電機能が欠かせません。
また、政府は系統用蓄電池の導入を後押しするため、補助金制度の拡充や制度整備を進めています。
たとえば、一般社団法人環境共創イニシアチブが窓口となり、系統用蓄電池の導入費用を一部支援する制度を用意しています。
系統用蓄電池の仕組みは「系統用蓄電池の仕組みをわかりやすく解説!【メリット・デメリットを徹底調査】」で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
需給調整市場の取引の流れ
需給調整市場の取引は、一般送配電事業者が買い手となり、発電事業者やアグリゲーターが売り手となって行われます。取引の流れは以下のとおりです。
- 1. 調整力の募集
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一般送配電事業者が必要となる調整力を提示し、市場で募集を行う。
- 2. 応札
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蓄電池を持つ発電事業者やアグリゲーターが、自社の供給能力に応じた価格で応札する。
- 3. 落札者の決定
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入札結果に基づいて、調整力を提供する事業者が決定する。
- 4. 調整力の指令・実行
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電力供給の変動に応じて、一般送配電事業者からの指令に従い、充放電を行う。
需給調整市場では、あらかじめ確保された調整力に対して、実際の需給状況に応じて指令が出され、充放電が行われます。
需給調整市場と他の電力市場との違い
需給調整市場と、卸電力市場や容量市場では、取引の目的や報酬の仕組みが異なります。
| 市場名 | 取引の目的 | 取引される価値 |
|---|---|---|
| 需給調整市場 | 需給バランスの調整 | ΔkW価値(調整力)+kWh価値(電力量) |
| 卸電力市場 | 電力量の売買 | kWh価値 |
| 容量市場 | 将来の供給力の確保 | kW価値 |
卸電力市場は電気そのものの価値を取引する市場であるのに対し、需給調整市場は需給バランスの調整に必要な調整力や、調整に使った電力量に対して対価が支払われます。
容量市場は中長期的な供給力の確保を目的としており、将来にわたって安定して電力を供給できる能力に対して対価が支払われる点が特徴です。
3つの市場を組み合わせて収益性の向上を図るケースもあります。
需給調整市場で取引される商品


需給調整市場では、応答の速さや継続時間の違いによって、次の5つの商品に区分されています。
| 商品区分 | 役割と特徴 | 応動時間 |
|---|---|---|
| 一次調整力 | 電気の周波数が急に乱れたときに、すぐにバランスを整えるための調整力 | 10秒以内 |
| 二次調整力① | 比較的短い時間の電力のズレや、発電所のトラブルによる不足などに対応する調整力 | 5分以内 |
| 二次調整力② | ゲートクローズ以降に生じる予測誤差に対応する調整力 | 5分以内 |
| 三次調整力① | ゲートクローズ以降に生じる需要の予測ミスや再生可能エネルギーの出力変動、発電トラブルによるズレに対応する調整力 | 15分以内 |
| 三次調整力② | FIT特例制度を利用している再生可能エネルギーの予測誤差に対応する調整力 | 60分以内 |
蓄電池は充放電を瞬時に行えるため、とくに一次調整力との相性が良好です。
需給調整市場で系統用蓄電池を収益化する仕組み
系統用蓄電池が需給調整市場に参加して収益を得る仕組みは、主に「ΔkW(デルタキロワット)価値」と「kWh(キロワットアワー)価値」の2種類で構成されます。
ΔkW価値は、調整の要請に応じられるよう待機している状態に対して支払われる対価で、実際に放電しなくても発生する報酬です。
一方、kWh価値は、指令に基づいて実際に充放電を行った電力量に対して支払われる実績報酬を指します。
市場価格は需給バランスや燃料価格の変動によって常に変化します。価格動向を踏まえた運用や適切な商品選択が収益を最大化するポイントです。
系統用蓄電池を需給調整市場で活用する条件


蓄電池を需給調整市場で活用する条件は、次の3つです。
- アグリゲーターと契約していること
- 素早い応答ができる制御機能を備えていること
- 電力データの計測・通信機能を備えていること
上記を理解しておくと、自社での参入可否や準備すべきポイントを判断できます。
アグリゲーターと契約していること
需給調整市場では、アグリゲーターを通じて参加するのが一般的です。アグリゲーターは企業と電力会社の間に入り、入札業務や蓄電池の制御指示を行います。
また、需給調整市場に参加するには、一定の出力や応答性能などの条件を満たす必要があります。
しかし、アグリゲーターを活用すると複数の蓄電池をまとめて運用でき、条件を満たしやすくなります。価格の判断や運用の最適化も専門的に行われるため、自社で対応する負担も軽減可能です。
素早い応答ができる制御機能を備えていること
需給調整市場に参加するには、電力の変化にすぐ対応できる制御機能が必要です。
とくに一次調整力では、電力系統の周波数変化を検知し、瞬時に出力を調整します。そのため、蓄電池に自動で充放電を切り替える制御機能があると、対応しやすくなります。
周波数がわずかに変動した際に、ミリ秒〜秒単位で充放電を切り替えて、電力のバランスを保つことが可能です。
電力データの計測・通信機能を備えていること
需給調整市場に参加するには、電力データを正確に計測し、リアルタイムで送信できる通信機能が求められます。
需給調整市場では、指令に対して適切に対応できたかを報告するため、正確なデータの取得が必要です。
出力状況や稼働状況をリアルタイムで計測し、そのデータを電力会社やアグリゲーターへ遅れなく送信すると、適切な運用が可能になります。
通信が途切れたり、データに欠損があったりすると、信頼性の低下やペナルティにつながる恐れがあるため注意が必要です。
需給調整市場に系統用蓄電池を活用するメリット


需給調整市場に系統用蓄電池を活用するメリットは次の2つです。
- 新たな収益源になりやすい
- 脱炭素やエネルギー活用の幅が広がる
メリットを理解すると、収益性や事業展開の可能性をイメージできるようになります。
新たな収益源になりやすい
需給調整市場に参加すると、蓄電池を活用した新たな収益源の確保につながります。
需給調整市場では、蓄電池を「調整力」として提供することで収益を得られます。
とくにΔkW価値は、設備を稼働できる状態にしておくだけで発生するため、比較的安定した収益につながりやすいのが特徴です。
すでに自社で蓄電池を保有している場合、追加の設備投資を抑えながら収益を増やすことが可能です。
脱炭素やエネルギー活用の幅が広がる
系統用蓄電池を活用すると、脱炭素への取り組みを進めながら、エネルギー活用の幅を広げられます。
蓄電池は、再生可能エネルギーの有効活用を支える設備であり、需給調整市場への参加を通じて、電力の安定化にも貢献できます。
こうした取り組みは、企業としての環境配慮や脱炭素経営の推進にもつながるでしょう。
さらに、電力の需給状況や市場価格を踏まえて充放電のタイミングを調整すると、再生可能エネルギーの無駄を抑えた効率的なエネルギー管理が可能です。
需給調整市場における蓄電池ビジネスのリスク


需給調整市場の蓄電池ビジネスにおける、主なリスクは以下のとおりです。
- 一般送配電事業者からの指令に従えなかった場合、ペナルティが課される
- 制度変更によって、収益性や運用方法に影響が出る可能性がある
- 市場価格の変動により、想定していた収益を確保できない可能性がある
とくに注意すべきは、指令に対応できなかった場合のペナルティです。未達分に応じてペナルティ料金が課せられるほか、取引停止の措置が取られる可能性があります。
また、設備トラブルや制御不具合、通信異常などにより、指示通りに充放電できないリスクもあります。
需給調整市場で安定的に収益を上げるには、リスクを踏まえた運用設計と継続的な情報収集が重要です。
需給調整市場で系統用蓄電池の収益性を高める運用ポイント


蓄電池ビジネスで成功するには、次の2つのポイントが重要です。
- 価格予測と運用を最適化する
- エネルギーマネジメントシステムを活用する
上記のポイントを押さえ、収益性を高めるための具体的な運用方法を理解しましょう。
価格予測と運用を最適化する
需給調整市場で収益を高めるには、市場価格を予測しながら運用を最適化することが重要です。電力価格は、天候や電力需要、燃料価格などの影響を受けて変動します。
そのため、過去のデータをもとに価格の傾向を分析し、どのタイミングで応札するかの判断が求められます。
価格が高くなるタイミングを見極めて応札すると、より高い単価で収益を得ることが可能です。
エネルギーマネジメントシステムを活用する
需給調整市場における系統用蓄電池の収益性を高めるには、エネルギーマネジメントシステム(EMS)を活用した自動制御がポイントです。
EMSを活用すると、リアルタイムでデータを分析し、蓄電池の充放電を自動で制御できます。
また、複数市場をまたいだ運用の切り替えも、システムによって効率的に行うことが可能です。人的ミスのリスクを抑えながら、安定した運用につなげられます。



株式会社メンテルでは、電力の使用状況や市場価格をAIでリアルタイムに解析し、蓄電池の充放電を最適に制御するソリューションを提供しています。
需給調整市場と系統用蓄電池に関するよくある質問


需給調整市場と系統用蓄電池に関するよくある質問をまとめました。
- 需給調整市場だけで系統用蓄電池は収益化できますか?
- 系統用蓄電池は何年で元が取れますか?
- 需給調整市場だけで系統用蓄電池は収益化できますか?
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制度上は収益化が可能ですが、市場価格の変動により不安定になるリスクがあります。そのため、卸電力市場や容量市場と組み合わせて運用するケースが多く見られます。複数の市場を使い分けることで、収益の安定化を図ることが可能です。
- 系統用蓄電池は何年で元が取れますか?
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一般的に数年〜10年程度といわれています。ただし、この期間は運用方法によって大きく変わります。市場価格の予測や適切な充放電の管理、故障リスクの低減などを行うと、より早期の回収を目指すことも可能です。
まとめ
系統用蓄電池を活用した需給調整市場への参入は、新たな収益機会の確保と脱炭素への貢献を両立できる有効な手段です。
需給調整市場は電力の需給バランスを整える役割を担い、蓄電池は高い応答性能を活かして収益を得ることができます。
一方で、安定した収益を確保するには、アグリゲーターとの連携や適切な運用体制の構築が欠かせません。
株式会社メンテルでは、AIを活用した最適制御により、蓄電池運用の効率化と収益性の向上を支援しています。
蓄電池設備の設計や運用でお悩みの企業は、ぜひお気軽にご相談ください。

