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EPWファイルとは何か(気象データの基礎)

建築や都市の環境シミュレーションに欠かせない「EPWファイル」。この記事では、EPWファイルの基本的な構造やそこに収録されている具体的な項目(気温・湿度・日射・風向風速など)をわかりやすく解説します。さらに、シミュレーションでよく耳にする「TMY(標準年)」や日本の「AMeDAS(アメダス)」との深い関係、実務で役立つ便利な周辺知識まで、基礎から丁寧に紐解いていきましょう。

目次

1. そもそも「EPWファイル」ってなに?

建築の省エネ性能を計算したり、室内の温度変化を予測したりするとき、コンピューターの中に「仮想の建物」を建てて実験を行います。この実験を「建築環境シミュレーション」(または熱負荷計算)と呼びます。

このシミュレーションを行う際、「その場所がどんな天気なのか」という情報がないと計算が始まりません。そこで使われる世界共通の標準的な気象データフォーマットの1つが「EPW(EnergyPlus Weather)ファイル」です。

アメリカエネルギー省(DOE)が開発した有名なシミュレーションソフト「EnergyPlus」の標準フォーマットですが、現在ではそれ以外の多くの環境シミュレーションソフト(Green Building Studio、Honeybee、Rhinocerosのプラグインなど)でも広く採用されています。

2. EPWファイルのテキスト構造

EPWファイルは、拡張子が .epw となっていますが、中身はカンマで区切られたシンプルなテキストファイル(CSV形式に近いもの)です。メモ帳などのテキストエディタやExcelで開くと、人間でも中身を読むことができます。

ファイルの中身は、大きく分けて「ヘッダー情報」と「毎時の気象データ」の2つで構成されています。

① ヘッダー情報(最初の数行)

ファイルの冒頭には、その気象データが「どこの場所のものか」を示す情報が書かれています。

  • LOCATION(位置情報) 都市名、国名、緯度、経度、タイムゾーン、標高など
  • DESIGN CONDITIONS(設計気象条件) 空調設備を設計する際に基準となる、極端に暑い日や寒い日のデータ
  • GROUND TEMPERATURES(地中温度) 月ごとの深さ別の地中温度

② 毎時の気象データ(8760行のデータ)

ヘッダーの下には、1年(365日×24時間=8,760時間)分の気象データが1時間ごとに1行ずつ、ずらりと並んでいます。これがシミュレーションの計算に直接使われる主役のデータです。

3. どんなデータが収録されているの?(収録項目)

EPWファイルの1行(1時間)の中には、なんと30種類以上の項目が詰め込まれています。その中でも、建物のシミュレーションにおいて特に重要な項目をご紹介します。

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主な収録項目単位シミュレーションでの役割
乾球温度(気温)室内の温度変化や、エアコンの効き具合(熱負荷)に最も直結する基本データです。
相対湿度%結露の予測や、人間が快適に感じるかどうかの計算に使われます。
法線面直達日射量$W/m^2$太陽から遮るものなく直接届く強い光です。窓から入る日射熱の計算に重要です。
水平面散乱日射量$W/m^2$空全体の雲や空気分子に反射して、全方向からマイルドに届く光です。
風向・風速° / $m/s$窓を開けたときに、どれくらい心地よい風が室内に通り抜けるか(自然換気)を計算します。
雲量0〜10空がどれくらい雲で覆われているかを示し、放射冷却などの計算に影響します。
日射量のポイント

EPWファイルには、太陽の光が「直達(直接届く)」と「散乱(空で散らばる)」に分けて細かく記録されています。これにより、建物の向き(南向き、西向きなど)によって太陽の光がどれくらい当たらかを正確にシミュレーションできるようになっています。

4. 「TMY」や「AMeDAS(アメダス)」との関係は?

EPWファイルをダウンロードしようとすると、よく「TMY3」や「AMeDAS」という言葉を目にします。これらはデータの「中身の作り方」を表しています。

TMY(Typical Meteorological Year:標準年気象データ)とは?

シミュレーションをする際、「去年のデータ」だけを使うと、たまたま去年が「記録的な猛暑」だった場合に、標準的な建物の性能が評価できなくなってしまいます。

そこで、過去30年ほどの膨大な気象観測データから、「最も平均的で標準的な1ヶ月」を各月から選び出し、それらをつなぎ合わせて作った架空の1年間のデータをTMY(Typical Meteorological Year)と呼びます。EPWファイルの多くは、このTMYの考え方に基づいて作られています。

日本の「AMeDAS(アメダス)」との関係

日本には気象庁が誇る高密度な観測網「AMeDAS(アメダス)」があります。しかし、アメダスの通常観測では「日射量」や「長波長放射」など、建築シミュレーションに必要な項目が一部不足しています。

そのため、日本ではアメダスの観測値をもとに、高度な計算で日射量などを補正・追加した「拡張アメダス気象データ(EA気象データ)」などが作成されており、これが日本国内のシミュレーション用EPWファイルのベースとして広く使われています。

5. EPWファイルを実際に使うには?(入手と可視化)

ここでは、一歩踏み込んで「どうやってEPWファイルを手に入れ、どうやって確認すればいいのか」という実践的なポイントをご紹介します。

1. どこで手に入る?(無料の入手先)

世界中のEPWファイルは、主に以下のウェブサイトから無料でダウンロードできます。

  • Climate.OneBuilding.org: 世界中の最新の気象データ(TMYデータなど)が地域ごとに整理されており、現在最も広く使われている配布サイトの1つです。日本の主要都市のデータも多数登録されています。
  • EnergyPlus公式ウェブサイト: ツール開発元が提供する気象データページです。

2. 数字の羅列をグラフにしたい!便利なツール

EPWファイルはテキストなのでそのままでは読みにくいですが、無料のツールを使うことで、その地域の気候特性を美しいグラフで一瞬にして視覚化(可視化)できます。

  • DView: EnergyPlusの関連ツールで、EPWファイルを読み込むだけで、1年間の気温の変化や日射量の動きをインタラクティブなグラフにしてくれます。
  • Ladybug Tools(Climate Consultantなど): 建築設計者向けに、風配図(ウインドローズ)や、快適性を評価するサイクロメトリックチャート(湿り空気線図)を自動で作成してくれる素晴らしいツールです。

(※挿入画像イメージ:Climate ConsultantやLadybugで描画された、カラフルな風配図(ウインドローズ)やサイクロメトリックチャートの綺麗なグラフ画面)

6. まとめ

EPWファイルは、「世界中のあらゆる場所の、標準的な1年間の天気を1時間刻みで記録した、シミュレーション用の共通ノート」のようなものです。

その中には、気温だけでなく、建物を温める太陽の光(日射量)や、建物を冷やす風(風向・風速)のデータがぎっしりと詰まっています。このファイルの構造や意味を理解しておくことで、建築環境シミュレーションの結果をより深く、正しく読み解くことができるようになります。

まずは無料の配布サイトからお近くの都市のEPWファイルをダウンロードして、ビューアーで覗いてみることから始めてみてはいかがでしょうか?

あなたがシミュレーションしてみたい都市はどこですか?まずは身近な地域のEPWデータを開いて、その場所の「標準的な1年」をグラフで覗いてみましょう!

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